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2009 
June 14
黒い氷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 16-3)黒い氷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 16-3)
オーサ・ラーソン
早川書房 刊
発売日 2009-05-05




凄まじい殺戮劇から離れて優しい愛をつかんだレベッカに幸あれと願う第3作です。 2009-06-05
人間の暗い性を描き切り静から動へと豹変する衝撃のストーリー展開で読者を魅了する女性弁護士レベッカ・マーティンソン・シリーズ期待の第3弾です。本書の冒頭で前作「赤い夏の日」事件で正気を失ったレベッカの精神科病棟での長く痛ましい闘病生活が描かれます。そして、ようやく回復し弁護士を辞めて故郷キールナに帰って来た彼女を追いかけるように女性の惨殺死体が見つかるのですから、またもや不吉な予感に捕われます。レベッカは地元の検事局の職に就き働く内に殺人事件を捜査するアンナ=マリア警部とスヴェン=エリック警部に再会し、国際的大企業カリス鉱業を巡る事件に巻き込まれて行きます。本書でも著者は十分に筆を費やしカリス鉱業の社長マウリ・カリスを中心とする人間模様を過去と現在を行き来しながら丹念に綴ります。今回心に残ったのはマウリの母親が狂気に冒された身で、彼が母の愛に恵まれなかった少年時代を送った事と呼応するように、おばあちゃん子だったレベッカがやはり母親とは十分に情を通わせられなかったという2人に共通する家族の記憶です。マウリの母親が病院で産んだインド人との混血の娘エスターも誠に興味深い存在で最後に重要な役割を果たします。今回レベッカは警察に協力して事件の謎を追いながらも完全にはのめり込まず、隣人のシヴィング老と飼犬ベラに癒され昔の記憶を辿りながら、弁護士事務所の元上司モーンスを恋しがり、エリック警部と好きな猫の話で盛り上がる上々の精神状態を保ちます。やがて犯罪の全貌が判明しますが著者は謎解きや逮捕劇を重視せず、全く予期せぬ殺戮シーンで読者を驚愕させます。私は今回レベッカを殺戮シーンから遠ざけた理由は三度の繰り返しを避けた為ではなく過去二回十分に苦しんだ彼女への思い遣りだと思います。終章は安らぎに満ちたレベッカの幸福感が伝わって来る最高の場面ですので、きっと誰もが大満足される事でしょう。


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